安眠堂
晩食安眠・早食不眠
天河流動縁起 書籍注文

第一章 白老師との出会い

【観世音菩薩の胸中に飛び込む】 2




吸い込まれるような収縮から一瞬の間をおいたかと思うと、一転して目もくらむばかりの光粒が四方八方に解きはなたれ、強い衝撃波がうねり響いてきた。   この光景を目前にして、わたしはただただ呆然とするばかりであった。 予想だにしなかった事態を、是とも非とも判断することができなかった。 慈悲の化身とされる観世音菩薩を粉々にしてしまったのだから、それも当然であろう。 しかも衝撃波に打たれるがままでは、吉凶を知ることもできず、一段落付くのをじっと待つほかに手だてがなかったのだから。もしおさまらなかったなら、いまでもその状態のままであったろうが、幸い確かにそれはおさまった。 おさまりはしたのだが、自由を取り戻したからだ(肉体ではない)を実感してほっとしたのも束の間、さらに驚かされたのは、満天に散ったみ姿のひとつひとつが、神々しく輝く神霊となり、わたしの中に深く降りそそいできたのである。 貴くおごそかな神霊たちを身近にして、正直わたしはめまいすら覚えた。  霊という存在が、これほど親しく感じたことはかつてなく、また自分がこれほど自由な存在であったことを自覚したこともなく、はたしていま自分がいったいなにをしているのかも理解できないほどに、限りない解放感に浸ることができたのである。 一度この感覚を味わってからというもの、思い帰せばまさに神霊に取りつかれたかのように、四六時中恍惚感に浸るようになった。そしてそのたびに、より広大な神霊の絶大なる光量を一心に浴びることができた。  まるで自分が白金の光波をはなつ宝玉となったかのような。   まるで現界において染み付いた塵芥を、すっかり洗い落としたかのような。   まるで肉体ではない、もう一つ二つ別のからだを脱ぎ捨てたかのような。 さらなる至福と充実が、わたしをつつんで止まなかった。それまで自覚していたこころというものが、清涼感あふれる光明で埋めつくされていくかのようであった。   これほどの喜びが、これほどたやすく得られるとは思いもよらなかった。  なにより素晴らしかったのは、もはやどこにも無意味な言葉はなく、あるのは美しい響きのみであったこと。それも高みに昇れば昇るほど、壮麗にして深長なハーモニーとなるのである。  身にあまる光栄に魅了され、誘導される旋律的な感慨にたえ切れず、わたしは何度彼らの庇護の下ににとどまろうかと考えたか知れなかった。   暑苦しい肉体という衣を何故後生大事にしてきたのか。 と考えてみれば馬鹿らしく、もう二度と現界などにもど気持ちにはなれなかったのである。  いやもうもどる必要もない。未来永劫安住しよう。 と深く深く光の世界に浸かっていった。  わたしは初めて自由があることを知った。。。。。。。。


前のページヘ 次のページヘ